日本人はうなぎの蒲焼きが大好きである。土用の丑の日はもちろんのこと、「スタミナつけたいから」といっては食べ、「今日はお祝いね」といっては食べる。それでも飽き足りず、缶詰にしてしまうほど好きなのだ。
とはいえ、昔は数種類あったうなぎ蒲焼缶も姿を消していった。物流網や冷凍技術が発達したおかげでパックものが出回り、手軽に食べられるようになったからだ。
そんな折も折、缶つまでうな蒲缶が発売されたから驚いた。そして、食べてみてもう一度驚いた。なんと最初から山椒の風味が利いているのだ。
(これはうな重にせねば...)焦るようにしてご飯を温め、弁当箱に詰めてから缶汁をたらり。この缶汁はもちろん、蒲焼きの甘辛いタレだ。そうして焦げ茶色になったご飯の上にうな蒲の身を並べたが、最初に食べちゃったものだから量が少ない。結果、白いご飯が見え隠れするという残念なうな重になってしまった。本当なら、ご飯はまず浅く詰め、そこに“隠しうな蒲”を仕込み、さらにご飯を詰めてうな蒲で覆い隠すというダブルうな重にしたかったのだ。そのためにはうな蒲缶を2つ買わねばならぬが、これは1缶2000円もする高級缶である。世界的にうなぎが減っているという切実な事情もあるし、そんな贅沢は許されないであろう。
湯せんで温めたうな蒲はふっくら柔らか、タレも濃厚で素晴らしかった。
(しまった。小さな器に詰めれば、量が少なくても立派なうな重になったんだ...)
そう思ったのは、すっかり食べ終わったときだった。