缶詰雑学
直火の話
オイルサーディンをもっとも美味しく食べる方法はただひとつ。缶ごと直火で炙って熱々にすることである。フタを開け、オイルを少し捨てて、コンロに乗せてぐつぐつとオイルを煮立たせる。最後に醤油を少し垂らしてもいい。この熱々のところを、缶から直に箸で取り上げて口に運ぶのだ。
オイルサーディンは器に開けると、とたんに寂しく見えてしまうところがある。やはりあの四角い缶の中にぎっしりと整列しているからいいのだ。それと、缶から直につまみ上げるのも風情がある。さんま蒲焼缶でこれをやるといかにも安っぽいが、オイルサーディンだと逆にカッコいい。だからなのか、老舗のバーなどに行くと、今でもこうやって出してくれるところがある。酒屋の一角で軽食を出す「角打ち」でも同じだ。
しかし、この缶ごと直火にかける方法は、缶詰業界では御法度とされている。なぜかというと、現代の缶は内側にコーティングを施しているものが多く、それが直火で溶ける恐れがあるからだ。それがどういう影響を体に与えるのかは判らないが、そもそも製缶メーカーは缶を調理器具として作っているわけではない。だから「直火にかけないでください」と注意を促すしかない。
しかし、それでも直火にかけたオイルサーディンには抗いがたい魅力がある。キャンプに行けば、オイルサーディンどころかさんま蒲焼缶もやきとり缶もやってしまう。だがそれは例の自己責任というやつ。あくまでも個人的な楽しみとして、大人の判断で行っていることなのであります。